一日一組限定。
こう書くと、なんだか高級旅館か隠れ家的なレストランのようだが、私の税理士事務所の話である。
相続税申告の初回面談は、原則として一日に一組しか受け付けていない。
面談の所要時間は、一時間程度とご案内している。あまり長くなると、お客様もお疲れになるだろう。
ただ、これまで多くのご相談を受けてきて、そう簡単に一時間では終わらないこともあると知っている。
相続には、それぞれのご家庭の事情がある。不安なことも、気になることも、話しているうちに次々と出てくる。
だから、一日にお受けする初回面談は一組だけ。後ろに別のお客様の予約は入れないことにしている。
もっとも、オンライン英会話の予約を入れていることはある。
そんな日に面談が長引くと、頭の片隅で「ああ、オンライン英会話が……」と思っている。
それでも、こちらから面談を切り上げることはしない。
実は、数年前の病院で、忘れられない出来事があった。
私は重篤な病気の診断を受けた。
突然のことで不安が大きく、診察室で医師にいくつも質問をしていた。
すると医師は、廊下で待っている患者さんがたくさんいる、と言った。
もちろん、それはわかる。私一人の質問に、いつまでも付き合っているわけにはいかない。
そうして診察は切り上げられた。
会計を待っている間に、付き添っていた家族から妙な話を聞いた。
私の質問が途切れないので、医師が机の上の時計をニュッと私のほうに押し出したというのだ。
私はまったく気づかなかった。
その話を聞いて、ドン引きした。
時間を区切る必要があることと、時計をニュッと出してくることは、別の話だと思う。
一方、私は開業税理士である。
一日に何組の面談を入れるかは、自分で決められる。次のお客様を待合室でお待たせする必要もない。
だから、一日一組限定にしている。
多少長引いても、次のお客様にご迷惑をかけることはない。
オンライン英会話の先生には、申し訳ないこともあるけれど。
私が一日一組限定にしているのは、時計をニュッと出さなくても済むように、ということでもある。
