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尿漏れと申告漏れ

小学生のころ、学校のトイレが苦手だった。

当時、学校のトイレは和式だった。家では洋式トイレを使っていたので、私は和式トイレでうまく用を足すことができなかった。

ちゃんとしゃがんでいるつもりなのに、おしっこが便器の外に出てしまうのである。

本人はいたって真剣だ。どうすれば便器の中にきちんと収まるのか、さっぱりわからなかった。

学校では、そんなことは教えてくれなかった。

もっとも、私もいつまでも和式トイレが苦手だったわけではない。何度も使ううちに、だんだん上手に便器の中へ収められるようになった。万一、外に漏れてしまっても、自分で掃除すればよいことを覚えた。

何事も経験である。

ところで、学校では租税教室というものが開かれている。

たとえば「マリンとヤマト」という租税教育の教材がある。税金がなくなった社会を描き、税金がなければ私たちの暮らしがどんなに大変になるかを教えてくれる。

税金は大切だ。社会を支えるために必要なのだ。

そういうことは教えてくれる。

しかし、実際にどうやって税金を申告するのか、どうすれば漏れなく申告できるのかまでは、なかなか教えてくれない。

和式トイレと同じである。

きれいに使いましょうとは言われても、どうすれば便器の外に漏らさずに済むのかは教わらなかった。

税金が大切だと知っていることと、正しく申告できることは別なのである。

尿漏れと申告漏れは、よく似た言葉である。

文化人類学者のメアリー・ダグラスは、汚れを、単に不潔なものとしてではなく、秩序との関係から考えた。

あるべき場所にないものが、汚れになる。

便器の中に収まっていれば何でもない尿も、便器の外に出れば困ったことになる。

相続税の申告でも、本来申告書に計上されるべき財産が抜け落ちれば、申告漏れになる。

どちらも、あるべきところに収まっていない。

相続財産を漏れなく申告することは、とても難しい。

亡くなった方の財産を一つひとつ調べ、申告すべきものをきちんと拾い上げる。相続税申告の仕事の大切な部分である。

実は、税理士として私が日頃から怖れている「漏れ」は、もう一つある。

特例の適用漏れだ。

税制には、納税者のさまざまな事情に配慮して、税負担を軽減する特例が用意されている。

例えば、小規模宅地等の特例。相続税の負担によって残された家族の暮らしの基盤が損なわれないよう、一定の要件を満たす土地の評価額を大幅に減額する制度である。

配偶者の税額軽減もそうだ。夫婦で築いてきた財産であることや、残された配偶者のこれからの生活を考慮して、相続税を大幅に軽減する。

もちろん、特例は使えばよいというものではない。適用できるかどうかを調べ、適用するかどうかを判断する必要がある。

その判断を税理士が誤ったら、どうなるだろう。

法律は配慮を用意してくれていた。お客様も、その配慮を受けられるはずだった。

それなのに、税理士のところで途切れてしまう。

私はそれが怖い。

計上漏れは、申告納税制度の秩序を損なう。

一方、特例の適用漏れは、せっかく用意された配慮を受け取れなくしてしまう。

どちらも、税理士が気を配らなければならない「漏れ」である。

……などと、ずいぶん真面目に考えてしまった。

しかし、ここで私は、別の意味で少し心配になってきた。

このところ、税金と排泄物を結びつけた記事を立て続けに書いているのである。

数えてみたら、これが五本目になる。

相続専門税理士が、こんなに続けて排泄物について書いていて大丈夫なのだろうか。

本人は毎回、何か面白いことを発見したつもりで夢中になっているのだが、傍から見れば、税金と排泄物のことばかり考えている税理士である。

そんなとき、私を励ましてくれるのが竹下景子さんである。

竹下景子さんは、尿漏れパッドのCMに出演している。

尿漏れという、以前なら人前で話すことをためらったかもしれない話題を、実に明るく、さわやかに語っている。

しかも、竹下景子さんは、少しも上品さを失っていない。

そうか。

尿漏れについて語ることと、品がないことは別なのだ。

そう思うと、少し安心する。

私が勝手に励まされているだけなのだが。

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