MENU

ご存じのとおり

行き違い防止のための問い合わせフォーム

あるサービスを7年ほど利用している。もっとも、安い客ではある。

9月、サービスのことで困ったことがあり、運営会社に問い合わせた。

この会社では、契約内容の変更などは問い合わせフォームから連絡することになっている。ホームページには、行き違いを防ぐためにも問い合わせフォームを利用してほしいという趣旨の案内がある。

指定どおりに送信すると、すぐに自動返信メールが届いた。

「お問い合わせを受け付けました」

担当者が内容を確認次第、折り返し連絡するとも書かれていた。

ところが、その後の連絡はなかった。ただ、困っていた問題がいったん収まったので、対応してくれたのだろうと思っていた。

10月になって、同じ問題が再発した。

改めて連絡し、9月の問い合わせについても確認したところ、こんな返事が届いた。

「弊社にメールは届いておりませんでした」

しかし、私は普通のメールを送ったわけではない。会社が指定する問い合わせフォームを利用し、受付完了の自動返信まで受け取っている。

そこで、フォームの通知機能に何らかの不具合があったのではないか、原因を確認してほしいとお願いした。

行き違いを防ぐための問い合わせフォームで、行き違いが起きたのである。

そんなこともご存じない?

返ってきたメールには、こう書かれていた。

「ご存じのとおり、PHPの問題等により、メールが正常に届かない場合もございます。」

折しも、PHPの脆弱性が世間で話題になっていた。

PHPという言葉は以前から何となく耳にしていたが、それが何なのか、詳しいことは知らない。今回の騒動で、自分のウェブサイトも何か対策が必要なのだろうかと気になった程度である。

そんな私に「ご存じのとおり」と言われても、困ってしまう。

そもそも、問い合わせが届かなかった原因がPHPなのかどうかも、説明されていない。

それにしても、「ご存じのとおり」とは、なかなか便利な言葉である。

「当然ご存じですよね」という意味にもなるし、裏返せば「そんなこともご存じないのですか」という響きもある。

相手が知っていることを前提に話を進められるので、説明する手間も省ける。

丁寧な言葉遣いなのに、不思議と丁寧に扱われた気がしない。

そもそも、こちらは知らないから尋ねているのである。

スタートとスターター

やり取りを続けるうちに、もう一つ、ややこしいことが分かった。

私は7年前、このサービスの一番シンプルなプランを契約した。

ところが、その「スタートプラン」はいつの間にか旧プランになっており、現在のホームページには「スタータープラン」という新しいプランが掲載されていた。

一文字違いである。

しかも、どちらも一番シンプルなプランという位置づけなのに、サービスの内容は違う。

例えば、メール報告サービス。旧プランでは有料オプションだが、新プランでは基本料金に含まれている。

担当者からは、最初、このメール報告サービスを確認するよう案内された。

ところが、私が問い合わせると、こんな返事が届いた。

「オプションでございます。ご放念下さい。」

担当者自身も、二つのプランを取り違えていたのかもしれない。

スタートとスターター。

利用者だけでなく、案内する側まで迷わせてしまう名前なのだろうか。

もちろん、サービスの変更には追加料金がかかることもある。必要なら支払うつもりで、最初からそのように伝えていた。

実際、変更について尋ねると、事務手数料や月額料金の案内が次々に届いた。

問い合わせは届かなかったが、追加料金の案内は確実に届くのである。

かけてはいけない電話

メールでのやり取りは、どうにも噛み合わなかった。

質問に対する説明が足りなかったり、前の説明と食い違っていたりする。そのたびに聞き直すのだが、なかなか話が前に進まない。

そこで、困った私は電話をかけることにした。

本来、問い合わせはフォームから行う決まりである。行き違いを防ぐためだ。

だが、そのフォームで行き違いが起き、メールでも話が通じない。

電話に出た方は、とても感じがよかった。

昨日から担当者とやり取りしているのだが、どうも噛み合わない。お忙しくて、何か別の仕事をしながら回答していらしたのではないか。できれば別の方とやり取りできないだろうか。

そんな趣旨のことを伝えた。

すると、申し訳なさそうに、担当者はその方しかいないのだと教えてくれた。

そうだったのか。

そのうえで困っていることを話すと、電話の方は、基本料金の範囲で対応できる方法を、その場で教えてくれた。

メールを何度も往復させても出てこなかった答えが、電話一本で出てきたのである。

行き違いを防ぐための決まりを守っている間は話が通じず、決まりを破ったら、あっさり通じた。

計7回

電話での話は、担当者にもちゃんと伝わったらしい。

翌日、メールが届いた。

「送信済みメールは計7回に及んでおりますので、まずはこれまでのメールのやり取りを改めてご確認ください。」

七回。

確かに、たくさんメールをいただいた。

ただ、その七回の中には、「ご放念下さい」の一通も入っている。

ほかの回も、説明が足りなかったり、食い違っていたりするので、そのたびに質問を重ねていたのである。

七回も説明してもらったのではない。七回もやり取りすることになったのである。

やれやれ。

私は、このサービスを解約することにした。

自分の仕事を振り返る

もっとも、私も税理士として、お客様と毎日メールをやり取りしている。

メールは郵便よりずっと手軽だが、必ず届くとは限らない。

お客様から「メールを送ったのに返事がない」と言われたことは、一度や二度ではない。受信箱も、迷惑メールも、ゴミ箱まで探して、それでも見つからない。これだけ大量にやり取りしていれば、そういうこともあるのだろう。

だから、2〜3日たっても返信がなければ、もう一度送るか、電話をしてほしいとお願いしている。

届かないこと自体は、仕方がない。

ただ、お客様へのメールに「ご存じのとおり」と打ちかけたら、消すことにしよう。