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手書き風と手書きは違う

以前、領収書をやめたら、なぜかペン習字を習うようになった、という記事を書きました。

その後も、二週間に一度、ペン習字に通っています。

先日、仕事で使っているお礼状の文章を、先生にお手本にしてもらうことにしました。

書きたいのは、こんな文章です。

「〇〇様

大切なお手続きをお任せいただき誠にありがとうございました。

ご入金にもお礼申し上げます」

最後の一文は、少し考えました。

「お振込み」や「お支払い」でもいい。

でも、お礼を言いたいのは、お金をいただいたことです。

そこは格好をつけなくてもいいのでは。

それで、「ご入金」にしました。

先生に渡す葉書には、住所などの印刷する部分と、私が手書きする部分の両方を入れておきました。

手書きする部分には、手書き風のフォントを使いました。

「ここは実際には私が手書きするところなので、分かるように手書き風のフォントで入れてあります」

と説明して、その部分のお手本をお願いしました。

そういえば、この一年くらいで、手書き風の文字を急によく見るようになりました。

AIが作った画像が、あちこちに出てくるようになったからです。

そこには、妙に手書きらしい文字が入っていることがあります。

手で書いていないのに、手書き風。

今回、先生に渡した葉書もそうでした。

先生は、その場でさらさらと書くのではなく、持ち帰ってお手本を作ってくれました。

次の教室で出来上がったものを渡しながら、先生が言いました。

「手書き風と変わらなかったらどうしよう」

私が手書き風のフォントで入れていった文章を、本当に手で書いたらどうなるのか。

全然違いました。

最初に思ったのは、

流れている。

ということでした。

手書き風フォントも、一文字ずつ見ればきれいです。

でも、きれいな文字が一個ずつ切り離されて、順番に並んでいるように見えます。

先生のお手本は、文章全体が上から下へ流れていました。

ペン習字を始めて知ったのですが、縦書きでは、一文字ずつ大きさや形をかなり変えます。

先生は、一文字ずつ箱に入っていると考えると分かりやすいと言います。

大きな箱、小さな箱。

平べったい箱、縦長の箱。

先生が文字の両側に線を引くと、大きな文字のところでは外へ膨らみ、小さな文字のところでは内側へ入ります。

私には、川幅が広くなったり狭くなったりしながら、上から下へ流れているように見えました。

これは縦書きのおもしろいところなのだそうです。

ただ、手書き風フォントも、なかなかよくできています。

文字の大小について話していると、先生が私の葉書を見て言いました。

「あ、でもこれもそうですよ。漢字とひらがなで大きさが全然違うでしょう」

本当だ。

手書き風フォントにも、ちゃんと大小があります。

でも、先生のお手本はもっと細かい。

大きい、小さいだけではなく、その間もある。

文字が入る箱の形も違います。

そして、一文字ずつが独立しているわけでもありません。

前後にどんな文字があるか。その並びの中で、大きさや形が決まっています。

きれいな文字を一個ずつ作って並べるのとは違う。

だから、文章全体が流れて見えるのでしょう。

今回のお手本は、千円でした。

「今回はオリジナルなので、千円で……」

先生は少し申し訳なさそうに言いました。

先生はよく、「線を磨く」と言います。

長いあいだ線を磨いてきた人が、持ち帰って作ってくれたお手本です。

それを千円で、と申し訳なさそうに言うので、私はちょっと笑ってしまいました。

そのお手本で、私がいちばん気に入ったのが「ご入金」でした。

「ご」は、小さく、品よくついています。

その下の「入」と「金」は大きく、左右への払いが伸びやかです。

金だよ、金。

金が入ってくる。

なんだか、おおらかで健康的な「ご入金」です。

私は以前、着手金をいただいていましたが、今はやめました。

途中で支払わなくなる人はいないだろう。

依頼してくださった方を、こちらも信頼することにしました。

いまは、仕事が全部終わってから、一度だけ報酬をいただきます。

だから「ご入金」は、本当に仕事の最後にあります。

相続税の仕事は、人が亡くなったところから始まります。

その仕事の最後にお金のことを書くのには、少し居心地の悪さがあります。

でも、仕事をして、その対価をいただくことにまで、恐縮しなくてもいい。

縮こまらなくてもいい。

何のてらいもなく、

「ご入金にもお礼申し上げます」

と書けたらいい。

先生のお手本を使って、これから練習します。

まずは、あの伸びやかな「ご入金」を、自分の字にしていきたいと思います。

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