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温泉卵ができる前に

昨日は、敬老の日だった。

台風で雨が降っていた空は、一日たつと真っ青に晴れていた。日差しはじりじりと強く、自転車をこいでいると少し汗ばむ。往来には人がたくさん出ていた。

そんな中を事務所へ向かっていると、ふと思った。

遺言書を書こう。


昨日、家で遺言について話す機会があった。

私は相続を専門にしている税理士なので、仕事をしていると、遺言書がなかったために大変なことになった人を見聞きする。

たった一枚あれば、こんなに大変なことにはならなかったのに。

そう思うことも、一度や二度ではない。

それなのに、私自身は遺言書を書いていなかった。

書き方を知らなかったわけではない。必要性を知らなかったわけでもない。

ただ、億劫だったのである。

事務所に着いたら、パソコンを立ち上げる前に、ぱぱっと書いてしまおう。

そんなことを考えながら、自転車をこいだ。


事務所に着くと、まず昼ごはんの支度をした。

といっても、大したものではない。お昼に食べるスープに入れる温泉卵を二つ作っておくだけだ。

卵を専用の容器に入れる。電気ケトルに水を入れて、スイッチを押した。

お湯が沸くまで、少しだけ間がある。

この間に、遺言書を書けるんじゃないか。

机の引き出しから、コピー用紙と万年筆と認印を取り出した。

「遺言書」と書く。

「私の所有する一切の財産を、〇〇に遺贈する。」

日付を書いて、名前を書いて、認印を押した。

よし、できた。

まだ、お湯は沸いていなかった。

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