かれこれ十年近く前、税理士登録をしたときのことです。
税理士登録には、思っていた以上にたくさんの書類が必要でした。
当時の私は、公認会計士有資格者として税理士登録をしようとしていました。
会計士試験の合格証書、実務補習の修了証書、履歴書、誓約書など、あれこれ書類を取り寄せ、ようやく一式を揃えて税理士会へ持っていきました。その中には、直近の確定申告書もありました。
税理士登録では、確定申告をしている人は、その申告書も提出します。申告や納税に問題がなかったかを確認するためだといいます。
登録課の男性職員が、私の申告書を見始めました。
その頃の私は、フリーランスとして主に翻訳の仕事をしていました。何社もの翻訳会社から仕事を受けていたので、取引先ごとの報酬額と源泉徴収税額が並ぶ欄には、会社名がずらりと並んでいました。
職員さんは、その一覧を見ながら、電卓をパチパチ叩いていました。
そして、ある一行で手が止まりました。
「ここ、源泉徴収税額が合いません」
え。
翻訳料は源泉徴収の対象です。
でも、一社だけ、源泉徴収をせずに報酬を振り込んでくる会社がありました。
「あ、その会社です。そこ、源泉徴収しないんです」
そう言いながら、思い出しました。
たしか、報酬の明細か送付状に、
「源泉徴収いたしませんので、ご自身で確定申告してください」
というようなことが書いてありました。
ただ、その紙は今、ここにはありません。
職員さんの目の前にあるのは、私の確定申告書だけです。
「でも、数字が合わないですよね」
「はい。でも、私の申告は合ってます」
そこから、ちょっとした押し問答になりました。
金額にすれば、二千円ほどです。
それ、私のせいじゃないんですけど。
職員さんは、なかなか納得してくれません。
フリーランスとして五年ほど働いてきましたが、私の確定申告書をこんなふうに眺めて、電卓を叩き、二千円のずれを見つける人には、初めて会いました。
ひとしきり押し問答をした末、どうにか書類は受け付けてもらえました。しばらくして、私は無事に税理士に登録されました。
税理士になるというのは、こういう人たちのいる世界に入ることなのか。
その門前で、二千円につまずきました。
今でも、ときどき思います。
税理士って、細かいなあ。

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