先日、税理士会の合同研修会に参加した。その後の懇親会では、普段あまり接する機会のない、別の支部の税理士たちと同じテーブルになった。
斜め向かいに座った年配の先生が、私に話しかけてきた。
「お茶ですか、お花ですか」
何のことだかわからず、キョトンとしていると、趣味の話だという。
「趣味を聞くと、その人がわかりますからね。知らない世界を知るのも面白いですよ」
先生の趣味はゴルフ、私の右隣に座った若い先生はダンベルだという。
税理士にはゴルフ好きが多い。税理士会にはゴルフ大会もあるし、ゴルフは税理士同士の共通言語のようなものだ。
さて、私の趣味は何だろう。いろいろあるが、この席では何と答えるのがよいだろう。
少し考えてから、
「野鳥観察です」
と答えた。
お二人とも、そんな趣味の税理士には初めて会ったという。
「やっぱり品がいいですねえ」
ここでようやく、先ほどのお花とお茶の意味がわかった。ゴルフ先生は私を、そういう人物だと見立てていたらしい。
最近は老後を見据えて、いろいろな趣味を試している。合気道にも行ってみたし、健康麻雀もちょっと齧った。あれこれ試している最中である。
いま気に入っているのは、NHKの教養番組だ。興味のある分野を気軽につまみ食いできるし、飽きたらいつでも放り出せる。私にはこれくらいがちょうどいい。
NHKの番組で教養を高めるのも趣味だと言ってみた。最近は仏教のシリーズ物を見ている。ただ、『歎異抄』という言葉を持ち出すと、場がシーンとなりそうなので、そこまでは言わなかった。
仏教の話はそのまま流れた。
一方、健康麻雀にはゴルフ先生が反応した。
税理士会の麻雀トーナメントで準優勝したことがあるという。健康じゃないほうの麻雀がお得意らしい。
税理士会にはゴルフだけでなく、麻雀の世界もあるのである。
さて、ゴルフ先生はすっかり上機嫌で、趣味にはその人の人柄が表れるという話を始めた。
そして、ダンベル先生と私を見比べては、私の趣味のほうが「品がいい」としきりにおっしゃる。
私は学生時代に齧ったブルデューの『ディスタンクシオン』を思い出していた。数か月前にNHKオンデマンドの『100分de名著』でも見た。
「先生がおっしゃっている趣味の話って、社会学でも研究されてるやつですね」
と言ってみたが、誰も拾わなかった。
「ディスタンクシオン」という言葉が喉元まで出かかったが、結局言わなかった。
ゴルフ先生はその後も、何かにつけて「品がいい」と褒めてくださった。名刺を差し出しても、やっぱり「品がいい」。
悪い気はしない。ただ、さすがに実物とは少々違う。
そのうちゴルフ先生は、実は天体観測も趣味だと言い出した。
「いいでしょ」
「あ、私もです」
今度は私が身を乗り出した。
地元の科学館の観察会に参加したこと。土星の輪を見たこと。木星のガリレオ衛星を観察したこと。
ついあれこれ話してしまったら、ゴルフ先生が黙ってしまった。せっかくの見せ場を奪ってしまったらしい。
その間ずっと、ダンベル先生と私はビールジョッキで緑茶を飲んでいた。
酔いが回ったゴルフ先生の目には、野鳥観察は品がよく、ダンベルはそうでもないらしい。
けれども、品のいい趣味の人と、そうでない趣味の人は、同じように素面で、同じように緑茶を飲んでいた。
「お茶ですか、お花ですか」
ゴルフ先生のおっしゃった「お茶」は茶道のことだろう。私が飲んでいたのは、ビールジョッキになみなみと注がれた緑茶である。
この文章を書きながら、思い出した。
はるか昔、中学3年生から高校まで、私は花道部に所属していた。有川式いけ花である。最後には部長まで務めた。
趣味としては外れていたが、お花もお茶も、半分ずつ当たっていたことになる。
そういえば、掃き溜めに鶴という言葉がある。
ここでいう鶴は、品のよさではなく、素面のことである。しかも二羽いた。
鶴は野鳥である。
