私は、日曜大工ならぬ「日曜研究者」である。
本業は税理士だが、かつては研究者を目指して、大学院で文化人類学を学んだことがある。
もともと、あれこれ考えることが好きなのだ。今でも身の回りの出来事を勝手に研究している。
最近の研究対象は、租税教育用のアニメである。
2000年に制作された『マリンとヤマト 不思議な日曜日』と、2026年に登場した『カノンとスバルの3つの願い』を見比べている。
その比較研究のなかで、私はある奇妙な発見をした。
話は少し長くなる。
四半世紀ぶりの新作
『マリンとヤマト 不思議な日曜日』は、2000年に国税庁が企画し、財団法人大蔵財務協会が企画制作した租税教育用のアニメである。
小学生の姉弟が妖精と出会い、税金のない世界を体験する。税金がなくなれば、学校も道路も消防も、当たり前のようには利用できなくなる。
そんな物語を通じて、子どもたちに税金の役割を教える作品だ。
全国の租税教室で長年使われてきた。制作から四半世紀を経ても現役の教材である。
その物語を受け継ぐ新作が、2026年に登場した。
『カノンとスバルの3つの願い』である。こちらは全国法人会総連合が企画制作した。
四半世紀も経てば、時代にそぐわない部分も出てくる。新作は、旧作を現代向けに作り直したものなのだろう。
実際、物語の骨格はほとんど変わっていない。
消防士の父親、仕事で不在の母親、おばあさん、妖精、通行料を要求する男。最後に中華料理が登場するところまで同じだ。
姉がかっこいい店員のお兄さんに見とれて、電柱に頭をぶつけるギャグまで踏襲されている。
一方、時代に合わせた変更も見られる。
旧作では看護婦だった母親が、新作では病院勤務の外科医になっている。
消費税のない世界を望む理由も変わった。
旧作では、お釣りの小銭を側溝に落としてしまった姉が、なぜか消費税に腹を立てる。新作では、消費税のせいで欲しいカードを買えなかったことが、そのきっかけになる。
こちらのほうが、ずっと自然である。
主人公の名前も、マリンとヤマトからカノンとスバルに変わった。
そして、髪型も一新された。
ところが、この髪型の変化は、私の予想の斜め上を行っていた。
新作を見始めるやいなや、私は少女の頭に目を奪われてしまったのである。
もっとも、驚いたのは一瞬だった。
次の瞬間、ははーん、と思った。
ここで、少し時代をさかのぼりたい。
うんこが教育界にやってきた
2017年、文響社から『うんこ漢字ドリル』が発売された。
漢字を学ぶ例文のすべてに「うんこ」という言葉を使う。そんな大胆な発想が子どもたちの心をつかみ、大ヒットとなった。
子どもはうんこが好きである。
大人がいくら真面目に勉強しなさいと言っても聞かない子が、うんこが出てくるとなれば、喜んで問題を解く。
この発明によって、うんこは単なる排泄物から、教育のための有力な道具へと変身した。
やがて、うんこドリルは漢字の勉強を飛び出し、社会のさまざまな問題を扱うようになる。
新型コロナウイルスの流行期には、感染予防を呼びかける場面にも登場した。うんこは、汚い言葉であるばかりか、衛生を教える言葉にもなったのである。
官公庁も、うんこの教育的な可能性に気づいたらしい。
租税教育はうんこに味を占めた
2021年11月、財務省が『うんこ税金ドリル』を発表した。
税金と、うんこ。
一見すると、ずいぶん遠いところにある二つのものを結びつけたのである。
ところが、これが好評だった。
2023年2月には、第二弾『うんこ税金ドリル(税金があるときないとき編)』が登場する。
財務省の発表によれば、第一弾に多くの反響があったことから、再びコラボレーションすることになったという。
どうやら租税教育は、うんこに味を占めたらしい。
さらに調べてみると、国税庁の公式YouTubeチャンネルには、関東信越国税局が制作した『ちぇいとうんこちゃん』というデジタル紙芝居まで存在する。
2022年6月にYouTubeで公開された動画である。
森に暮らすうんこちゃんと動物たちが、干ばつによる食料不足に直面し、「ちぇい」について考えるという物語である。
「ちぇい」とは何か。
もちろん税のことである。
財務省のドリルでは、うんこを使って税金を教えていた。今度は、うんこちゃん自身が物語の主人公になっている。
制作したのは財務省ではなく、国税局である。
作品同士に直接のつながりがあるのかどうかはわからない。
しかし、作り手が変わっても、うんこは変わらなかった。
うんこは、少女の頭に現れたのか
さて、『カノンとスバル』である。
実は、私はこのアニメを見始めて、すぐに奇妙なものを発見した。
主人公の少女、カノンの頭である。
頭のてっぺんに、茶色いものがこんもりと盛り上がっている。
しかも、先端がくるりと巻いている。
うんこを乗せているではないか。
私は、ひとつの仮説にたどり着いた。
租税教育は、うんこに味を占め、ついには新作アニメのキャラクターデザインにまで、象徴としてのうんこを巧みに配置するようになったのではないか。
これまでの作品では、うんこそのものがキャラクターになって、子どもたちに税金を教えていた。
ところが、今度は趣向が違う。
主人公は人間の少女である。その頭に、人気者のうんこを乗せているのだ。
これは、租税教育におけるうんこの活用が、新たな段階に入ったことを意味するのではないか。
しかも、うんこは髪型に巧みに紛れ込んでいる。
うんこと名乗ることなく、主人公の頭のてっぺんに堂々と鎮座しているのである。
色まで変わっている。
うんこドリルのうんこは黄色だった。現実の排泄物というよりも、すっかり記号化されたうんこである。
ところが、カノンの髪は茶色い。
髪の毛に化けたことで、かえって本物のうんこの色に戻ってしまったのだ。
茶色なら、髪としても自然である。うんことしても自然である。
見える人にだけ見える、絶妙な擬態ではないか。
ちなみに、弟のスバルにも、頭のてっぺんに盛り上がった部分がある。
こちらにもうんこみを感じないわけではない。
ただ、カノンほどあからさまではなく、栗かどんぐりにも見える。
したがって、決定的な証拠として採用できるのは姉だけである。
念のため旧作も確認したが、マリンの頭にうんこはなかった。
もっとも、アニメの世界では、現実にはありえない髪型も珍しくない。
カノンの髪型も、単なるキャラクターデザイン上の工夫なのかもしれない。
制作者がうんこを意図したという証拠は、何ひとつないのである。
土偶をサトイモと読む人、髪型をうんこと読む人
2021年、人類学者の竹倉史人さんが『土偶を読む』という本を出版した。
縄文時代の土偶は、植物などの精霊をかたどったものではないか。竹倉さんは、土偶の形と植物を比較しながら、そんな大胆な説を展開した。
なかでも有名なのが、遮光器土偶をサトイモの精霊とする解釈である。
この本はサントリー学芸賞を受賞した一方、考古学者らから批判を受けた。
2023年には『土偶を読むを読む』という反論書まで出版され、論争に発展した。
私は竹倉さんに、勝手に親近感を抱いている。
竹倉さんは私と同い年で、別の分野から人類学の世界に入ってきた人である。
私はといえば、人類学の世界から税理士の世界へ出ていった人間だ。
進行方向は正反対である。
竹倉さんは、土偶にサトイモを見いだした。
私は、法人会のアニメにうんこを見いだした。
もっとも、似ていることと、それが実際に何を表しているかは、別の問題である。
竹倉さんの説には、考古学者たちからさまざまな批判が寄せられた。
私の説にも、異論があるかもしれない。
しかし、私は日曜研究者である。
そもそも私は、すでに「うんこワールド」にどっぷり浸かった税理士なのだ。
以前、『うんこ税理士』というエッセイを書いた。
うんこ先生がいるのなら、うんこ税理士がいてもいいではないか。そんなことを考えて、自らうんこ税理士を名乗ってみたのである。
そういう人間には、何でもうんこに見えてしまうのかもしれない。
私の目がおかしいのか
『カノンとスバルの3つの願い』は、国税庁の動画ライブラリーなどから視聴できる。
特に注目していただきたいのは、カノンの横顔である。
私の目がおかしいのか、実際に見て確かめていただきたい。

