私の税理士事務所は、小さなワンルームマンションの一室にあります。
玄関の靴箱の上には、三つのものを置いています。金継ぎの器と、白いアロマストーンと、キャンドルポットです。
相続のご相談にいらした方は、事務所に入ってくるときには、たいてい何も言いません。でも、相談を終えて帰るときになると、ときどき靴箱の上のものに目を留めます。
いちばんよく声をかけられるのは、金継ぎの器です。
「これ、金継ぎですか。素敵ですね」
相続を専門にする税理士事務所の玄関に、金継ぎの器。壊れたものをつなぎ直すとか、家族の思い出を受け継ぐとか、いかにも意味がありそうです。
でも、私の金継ぎには、そういう由緒はありません。
友人に誘われてワークショップに参加したときに作ったもので、器もそこで練習用に売られていた、最初から壊れているものを買いました。
金継ぎの器のそばには、木製のトレイに載せた白いアロマストーンがあります。小石のようなものが五つ、並んでいます。
アロマストーンは無印良品で、トレイはKEYUCAで買いました。
私の事務所はワンルームなので、玄関のすぐそばが台所です。生ゴミを入れるゴミ箱も近くにあります。ご相談にいらした方をお迎えするとき、変な臭いがしたら申し訳ありません。
そこで、来客前にはアロマストーンにヒノキの精油を垂らすことにしています。
華やかすぎず、沈んだ感じにもならない香りがいいと思って、ヒノキを選びました。
金継ぎの器とは違って、こちらはまったく実用本位の品です。
ところが、ある日のこと。
相続手続きが長引いているというお客様がいらっしゃいました。
その方が帰り際にアロマストーンを見て、突然、大きな声を上げました。
あまりの驚きように、私もすっかり面食らってしまいました。
亡くなった親御さんが眠るお墓の玉砂利が、なぜか私の事務所の玄関に現れたと思ったのだそうです。
以前にも、別の場所にお墓の玉砂利が現れたというのです。
まるで怪談のような話ですが、そこにあったのは、無印良品のアロマストーンでした。
ちなみに、もう一つ置いてあるキャンドルポットは、ノルウェーのお店から食器を取り寄せたとき、送料無料にするために買ったものです。
私はキャンドルを使わないので、そのまま飾っています。
なかなか素敵なものなのですが、今のところ、誰からも何も言われていません。

