ホッチキスには、たいていお尻のところに、針を外すための爪がついています。
たいていの人は、それで十分なのだと思います。
私も、昔はそうでした。
監査法人に入ったとき、新人に一つずつホッチキスが配られました。MAXのものでした。
同期の子が、「MAXは間違いないらしいよ」と言いました。
へえ、と思いました。
そのホッチキスを、私はその後もずっと使っていました。
当時は、ホッチキスの針をどう外すかなんて、考えたこともありませんでした。
ところが、相続の仕事をするようになると、ホッチキスは留めるより外すことのほうが多くなりました。
戸籍謄本や取引明細、昔の申告書。
こちらにやってくる書類は、すでに誰かがホッチキスで留めています。
銀行は銀行で、役所は役所で、その人について持っている情報を一つのかたまりにして閉じています。
私はそれを、いったん外します。
開いて、読み、コピーしたり、スキャンしたり、ほかの書類と照らし合わせたりします。
最初は、普通にホッチキスのお尻の爪を使っていました。
でも、あれはときどき紙を傷めます。
針の下に爪を差し込んで持ち上げるので、穴が大きくなったり、紙が少し破れたりします。
自分の紙なら、別にかまいません。
でも、相続の仕事で扱っているのは、お客様から預かった書類です。
こちらの都合で穴を広げたり、破いたりして、ご家族に返すのは嫌です。
もう少し、きれいに外せないものだろうか。
そんなころ、とある行政書士YouTuberが、仕事で使っている文房具を紹介していました。
その中にあったのが、MAXの「ホッチポン」でした。
ホッチポン。
なんとも気の抜けた、いい名前です。
私はホッチポンを買いました。
これは便利でした。
外した針がそのへんに落ちません。本体の中にためておいて、まとめて捨てることができます。
たくさんの紙を扱う行政書士が使うのも、なるほどと思います。
ただ、使っているうちに、少し気になることも出てきました。
ときどき、うまく外れないのです。
考えてみれば、ホッチポンも、針の下に爪を入れて持ち上げるというところでは、ホッチキスのお尻の爪とそれほど変わりません。
抜いた針を散らかさない、という点では、とてもよくできています。
でも、私が気にしていたのは、そこではありませんでした。
紙を、できるだけ傷めずに外したかったのです。
そのホッチポンが、あるとき壊れたようでした。
次は何を買おう。
AIに相談してみました。
すると、「はりトルPRO」というものを教えてくれました。
そしてAIが言いました。
これは、針を外す仕組みが違います。
俄然、興味が湧きました。
はりトルPROは、針の下に先端を入れ、ハンドルを握って針をつかみ、曲げながら外します。
なるほど。
外してみると、たしかに違いました。
きれいに取れます。
しかも、「PRO」とついていますが、定価は594円です。
でも、針を外すことにかけては、たしかにPROでした。
監査法人に入ったころ、私にとってホッチキスは、紙を留めるための道具でした。
いまは、留められたものを外すことのほうが多くなりました。
銀行に残っていたもの。役所に残っていたもの。家の中に残っていたもの。
それぞれ別の場所で、小さなかたまりとして閉じられていた書類を、一つずつ開いていきます。
読み、調べ、照らし合わせる。
そうして仕事が終わるころには、あちこちから集まってきた書類を整理して、一冊のファイルに綴じ込みます。
ばらばらだったその人の痕跡が、最後には一つの束になります。
昔は、ホッチキスの針をどう外すかなんて、考えたこともありませんでした。
いまでは、針を外す仕組みの違いにまで、興味を持つようになりました。

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