相続の仕事をしていると、ときどき地方銀行の通帳が出てきます。
亡くなった方が、昔住んでいた土地や転勤先で作った口座です。その土地を離れて何年もたち、口座だけが残っている。
長く使われていないので、ご家族も残高を知りません。
「たぶん、ほとんど入っていないと思います」
そう言われることもあります。
私もこの仕事を始めたころは、地方銀行の口座を見つけるたびに、手続きのためにその地方まで行かなければならないのだろうかと思っていました。
調べてみると、多くの地方銀行は、東京駅や日本橋のあたりに東京支店を置いています。大きな店舗ではなく、ビルの一角に小さな窓口があるところもあります。
ただ、相続手続きとなると、都市銀行のように全国一律の仕組みが整っているとは限りません。
私が問い合わせると、戸籍や印鑑登録証明書、委任状などをそろえて、東京の窓口まで来てください、と言われることがあります。
問題は、そこまでして受け取るほどのお金が入っているのか、誰にもわからないことです。
少し前に終わった相続でも、そんな口座が一つありました。
銀行に問い合わせると、東京の窓口まで出向く必要があるとのことでした。
お客様は、
「たぶん、もうほとんど残っていないと思うので、そこは自分でやります」
とおっしゃいました。
そこで、その口座だけを残して、私はほかの相続手続きを進めました。
時間はかかりましたが、ほかの手続きは終わりました。最後にお渡ししたファイルには、その地方銀行のことも書いておきました。
一つだけ、残っています、と。
ファイルをお渡しし、報酬のお支払いも済みました。私とお客様との仕事は、そこでいったん終わりました。
数週間後、お客様からショートメッセージが届きました。
残高は、八百円だったそうです。
手続きには、新しい印鑑登録証明書も必要になるとのことでした。
印鑑登録証明書を取り直して、東京まで出向いて、八百円を受け取る。
お客様は、解約手続きはしないことにした、と書いていました。
そして最後に、
「いろいろお世話になり、ありがとうございました」
とありました。
私は、
「ようやく一区切りつきましたね。こちらこそ、ありがとうございました」
と返信しました。

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