六月、山形県のある町に一万九千円を寄附した。
返礼品は、白桃五キロ。品種はおまかせ。寄附金の使い道は「市長におまかせ」にした。
七月になると、返礼品事務局からメールが来た。
桃は七月二十日頃から九月二十日頃にかけて順次発送するという。出荷時期やその前後に不在の予定がある人、転居などで届け先が変わる人は、あらかじめ連絡してほしい。配達日の指定はできない。
二か月もある。
こちらが桃の到着日を指定するのではない。桃がやって来そうな時期に留守をするなら、人間のほうが知らせておくのである。
八月二十四日、ようやく「お礼品出荷のお知らせ」が来た。
届いたのは、大きな桃が十三個。「川中島」という、初めて聞く品種だった。調べてみると、もともと大玉で、果肉がかための桃らしい。
私は楽天ふるさと納税で寄附をすると、レビューを熟読する。
寄附をする前だけではない。返礼品が届いたあとも読む。同じ返礼品を選んだ人が、どう受け取ったのかが気になる。
今回も、桃を眺めながらレビューを読んだ。
いつもは、返礼品を褒めている人の感想を読むことのほうが多い。
ところが、この桃は様子が違った。
レビュー欄が荒れている。
硬い。甘くない。去年はおいしかったのに。今年は残念だった。一万九千円も出したのに、と。
いただきものに、あれこれ文句を言うものではない。私は、素朴にそう思ってきた。
だから、誰かから桃をいただいて、「硬い」「甘くない」「去年のほうがおいしかった」と品評することには、どこか違和感がある。
ましてこれは「商品」ではなく、寄附に対する「返礼品」である。
市長からもお礼状が届いていたではないか。「心のこもった御寄附を賜り誠にありがとうございました」と。
それなのに、届いた桃に星一つをつけて「甘くなかった」と書くのは、妙なことのように思えた。
とはいえ、私とて、何をいただいてもありがたいと思って、この町に寄附したわけではない。
おいしい白桃五キロが欲しかったのである。
もし、硬くておいしくない桃が届くとあらかじめ分かっていたら、この一万九千円は別の自治体に振り分けたかもしれない。
一万九千円は桃の代金ではない。それでも、限りのあるふるさと納税の枠のうち、一万九千円をここに使った。
私は桃を買っていない。
けれど、ただ桃をいただいたわけでもない。
我が家の川中島も、最初はカタカタに硬かった。
母に言われて二週間ほど追熟させたら、おいしくなった。
十三個もある。しかも、だいたい一斉に食べ頃になる。
毎日、桃を食べた。
もう桃はいい、と思うくらい食べた。
そして全部なくなった。
来年の夏になったら、また大きな桃が箱いっぱい届いて、冷蔵庫をしばらく占領することを想像すると、ちょっと嬉しい。
もちろん、来年も桃を買うわけではない。
