なぜ適正な運営が必要か
障害福祉事業では国や自治体から支払われる給付金が主な収入源です。つまり税金が投入されるわけです。
そのため、不正や違反行為が行われることなく、ルールに従って適正に運営されている必要があります。また単に適正に運営されているだけでは不十分で、それを証拠としてきちんと記録し、後から指定権者が検査できる仕組みも必要で、実際にそのような仕組みが設けられています。
この指定権者による検査には、
・実地指導
・監査
の2種類があります。
実地指導
実地指導とは、運営する障害福祉事業が関連する法律に違反していないかどうか、行政の担当者が事業者のもとへ確認に来るというものです。その目的は事業の運営の適正化を図ることにあり、具体的には、
・従うべき各基準(人員基準や運営基準、設備基準、報酬算定基準)に従って運営が行われているかどうか
・それがきちんと記録されているかどうか
・報酬の請求が記録に基づき適切に行われているかどうか
がチェックされます。
実地指導で不備が指摘されると、改善が必要です。
場合によっては、給付金の返還を要求されることもありますので、注意が必要です。
実地指導はおおむね3年に1回実施されますが、抜き打ちで行われることもあります。
指定後半年程度たってから、最初の実地指導が行われる場合もあります。
実地指導の中には「集団指導」といって、年1回、業者を会場に集めて、講義形式で実施するものもあります。
川崎市の集団指導についてはこちら
監査
監査は、実地指導よりも厳しい検査です。
重大な基準違反や給付金請求の過誤があったり、虐待が疑われる、実地指導を受けても改善が行われない場合などに実地されます。
監査の結果、違反が確認されると以下のような措置が行われます。
・改善勧告
・命令
・指定取り消し
・法人名や代表者名等の指定権者ホームページでの公表
・不正受給による返還
参考:神奈川県での指定取り消しとホームページでの公表事例はこちら
違反や不正受給により処分を受けるに至った場合、給付費の返還はもちろん、返還金額に40%にあたる加算金を加えて請求される場合があります。さらに、返還が遅れると財産を差し押さえられる場合もあります。
実地指導や監査で処分を受けないためには?
実地指導や監査で処分を受けないためには適正な運営を行う必要があります。
適正な運営というと抽象的ですが、大きな流れとして、次のように整理することができます。
各基準の遵守
人員基準の遵守
障害福祉サービスでは、サービスごとに求められている人員とその人数を正しく配置する必要があります。
サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者として配置された人が必要な資格や実務経験を有していなければなりません。常勤・専従等の要件や常勤換算の規定がある場合はそれを満たしていなければなりません。
・事業所に実際には勤務しない人物を従業員として市に指定申請又は変更届を提出し、人員基準を満たさない状態で事業を開始又は継続した。
・実際には勤務していない期間を勤務しているかのように見せかけるため、従業員の勤務開始日等を偽った変更届等を市に提出し、人員基準を満たさない状態で運営を継続した。
・資格のない人物について資格があるかのように見せかけるために、実務経験証明書等の内容を偽ったものや、学歴を証明する書類を偽造したものを市に提出した。
・従業員の退職等で人員基準を満たさなくなったまま、市に届出を行わず運営を継続した。
運営基準の遵守
運営基準とは、サービス提供にあたって事業所が行うべき事項や留意すべき事項、事業を実施する上で求められる運営上の基準を言います。
遵守が求められる運営基準には実にさまざまなものがあります。以下はその一部です。
・個別支援計画の適正な作成・管理
・サービス提供の記録
・管理者、サービス利用者等の責務
・運営規程関係
・勤務体制の確保
・秘密保持
・苦情解決
・会計区分
・サービス管理責任者等が退職等の理由により事業所に勤務していない期間にもかかわらず、不在のはずのサービス管理責任者等名義の印が作成者として押印されていた。
・利用者又は保護者等への説明や承認がないにもかかわらず、個別支援計画への利用者又は保護者等の署名と押印を事業所が勝手に行っていた。
報酬算定に関する基準の遵守
基本算定額や加算、減算などの報酬の算定を基準に従って適切に行うことをいいます。
適切な記録
遵守すべき基準の内容と遵守状況については、それぞれに書類(帳票)を整備し、適切に記録を行います。
この「適切な記録」は実地指導や監査対策上、非常に重要です。
基準を遵守してしっかりと運営を行っていても、それを第三者が確認できるように記録に残しておかなくては意味がないからです。
適切な請求
国保連への請求は、サービス実績記録表など作成した記録に基づき、適切に行う必要があります。
加算や減算についても、変更があった場合には、しっかりと反映させる必要があります。
請求が適切に行われず、不正受給となるようなことがあると大変です。不正受給は犯罪行為に該当し、悪質なものについては、詐欺罪や私文書偽造罪などにより処罰されることもありますので、十分に注意しましょう。
・特定の利用者について、通所実績のない期間、訓練等給付費を請求し、不正に受領していた。
・サービス管理責任者について、人員基準上の必要な配置ができていなかったにもかかわらず、減算を行わず訓練等給付費を請求し、不正に受領していた。
適切な報告
実地指導や監査で事実とは異なる内容の書類を指定権者に提出したり、指定権者の質問に対して虚偽の回答をしてはなりません。
神奈川県で指定取り消しを受けた事例では、取り消し事由の一部として、以下の虚偽の報告及び答弁があったことを挙げています。Source
・食事提供体制加算について、訓練等給付費請求の根拠資料の提出を求めたところ、実態と異なる資料が提出された(虚偽の報告)。
・管理者兼サービス管理責任者が配置されていなかったにもかかわらず、実態と異なる内容を答弁した(虚偽の答弁)。